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さようなら 翔

七年前の六月。
暑い日でした。
「どの子がよろしいですか?」
シックなスーツの店員は、細長い箱を三つ棚から取り出し、カウンターに並べました。私の方に足を向けて横たわる三人の翔。
「同じように見えますが、一人一人違うんですよ」
そう言われると何だか微妙に違う気がする。
「じゃ、この子・・」
一番優しそうな表情の翔を指差しました。
「男の子は重いですよ。気を付けて」
店員は、「Super Dollfie」のロゴの入った大きな白い紙袋に、翔と単品で買った靴とソックスを入れ、注意深く手渡してくれました。
全然重くないじゃん。
コツコツ貯めたお金でやっと手に入れたスーパードルフィー。そのうれしさが、重さを感じる感覚を打ち消していました。
車を停めた駐車場まで歩いて約15分。
もっと近くに停めればよかった。後悔したのはボークスショールームを出て5分後でした。紙袋の持ち手をかけた右肩が痛い。左肩にかけ直す。左肩が痛い。右肩にかけ直す。両手で持つ。脇に抱え込む。
やっと車に辿り着いた時には疲労困憊してました。

翌日、早速衣装のデザイン、型紙おこし、生地の裁断、ミシン掛け。
出来上がった衣装を着せてはいポーズ。
「どうこれ、かっこいいでしょ、気に入った?」
なんて話しかけると、翔がニコッって微笑んだように見えました。
よく出来た衣装はオークションに出品。ボークスショールームに払った分の金額を1年で取り戻してくれました。
出来上がった衣装を着て格好良くポーズを決めている翔の姿を想像しながら、デザインしたりミシン掛けしている時間が好きでした。
その時だけ、俗世間の嫌な事も忘れられました。
さようなら翔
2011年3月11日。
日本を、世界を震撼させたあの日。
震度6強の揺れが我が家に残していった物。縦横斜めに走る無数の内壁の亀裂。外壁のひび割れ。庭の地盤沈下。
三段チェストの上に載せてあった翔も、箱ごと落下。ざぶとんの上に落ちたので無傷でしたが、その後毎日のように起きる余震。家の中どこを歩いてもミシミシ音がします。強い風が吹いてもぶるぶる揺れてギーギー音がします。
もし大きな余震が来て、台風が直撃して、家が倒壊してしまったら、翔も一緒に押しつぶされてしまうかも知れない。例え無事だったとしても、引っ越しを余儀なくされたら小さなアパートか市営住宅に家族で住む事になる。狭い家だから必要最小限の荷物しか持っていけない。
そんな事をずっと考えていました。そして二ヶ月後、やっと決心しました。

「同意して出品する」のボタンを押す事がなかなか出来ませんでした。押そうとしてマウスから手を離し、また押そうとして手を離し、それを4回繰り返した後「えいっ」と気合いを入れてクリック。その瞬間、つぅーんと熱い物が私の胸の中を駆け抜けました。

翔を落札してくれたのは、誠実で優しそうな女性。
綺麗に汚れを落とし、髪をとかし、箱に寝かせて蓋をした時、涙が溢れ出ました。
「よろしくお願いします云々」と書いた手紙を同封し、あの大きな白い紙袋に入れてしっかり梱包する。両手で抱きかかえて車に乗せる。本当に男の子は重いですね。
胸は少しじわじわしていましたが、もう涙は出ませんでした。
いつも頭の中にあったのは、津波でめちゃくちゃにされた東北海岸沿いの映像。もし翔があのがれきの一部になってしまったら・・。
ここは津波の心配はありませんが、余震や台風であの映像のようにならないとは言いきれない。
これで良かったんだ、そう自分に言い聞かせました。

翌日、落札者の方から無事到着と連絡がある。ほっと一安心。
これで良かったんだよね。

さようなら 翔

七年間 ありがとう


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プロフィール

巴世里人

Author:巴世里人
自称イラストレーターですが、時々人形服をヤフオクに出品しています。過去に出品した作品の中から、ポエム付きのものだけ載せてみました。
「人間のように喋る人形」は人形がテーマの自作小説です。難しい言葉は使ってませんので小さなお子さんにも絵本感覚で読んでいただけると思います。

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